二人の子供を東大に合格させた大岸良恵さんは、自身も東大法学部を卒業しています。
 
大岸さんは人材コンサルタントとして働いてきた経験から、自分の子供も研究者や経営者など「マネージする」職業に就いてほしいと考えてきました。

そのためにはまず、子供が自分自身をマネージできなくてはいけません。大岸さんが子供の自立を実現するために実践した子育ての一部を、雑誌「プレジデント Family」秋号からまとめます。
 
(このコンテンツはプレジデント Family2017年秋号46~51ページを参考にしています)

「自分でやりなさい」がモットー「朝起こしたことはない」

大岸さんは、子供さんが幼稚園の時から、一度も朝起こしたことがありません。二人の息子さんは目覚ましで起きていたのです。仮に起きなくても、大岸さんは放っておきました。
 
子供さんたちは「この母は絶対起こしてくれない」とわかっているので、自分で起きるようになるのです。
 

 
この考え方は、河合隼雄さんの本にあった「あえてしないということも必要」との提言が基になっています。
 
起床だけではありません。部屋の片づけ、翌日の学校の準備も、最初にやり方をしっかり教えたら、その後大岸さんは全く手伝いませんでした。
 
それでも大岸さんの長男は小学校の時に時間ギリギリ登校を一回だけ、次男は開成の中高6年間、無遅刻無欠席と、二人とも規則正しい生活を送ったのです。
 
教育に効果的とされる読み聞かせは大岸さんも実践しましたが、やったのは幼稚園まで。小学校に入ったら子供さん自身で読ませていました。
 
大岸さんがやったのは子供の読書後に「読書していい経験ができたね」と声をかけてあげることくらいです。

「なぜ学校に行くのか・勉強するのか」の問いには

勉強に関しても「自分でやりなさい」が大原則。
 
「学校や塾、親を頼らず、自分で考えてやるものだよ」とよく言っていました。そのため「勉強しなさい」「宿題をしなさい」と言ったことは一度もありません。
 
しかし小学校に入る前に、息子さん二人と
 
「なぜ学校に行くのか」
「勉強は何のためにするのか」

 
を時間をかけて話し合う機会がありました。
 

 
この話に費やした時間は、何と数ヶ月!
 
この長い期間を使って、
 
・社会で活躍するための力をつけるために学ぶ必要があること
・学生の本分は勉強すること
 
を親子で話し合いました。

塾に通ったのは1年間 勉強はダイニングで

子供さんが塾に通ったのは、中学受験を控えた小6の一年間だけです。小学校高学年になると、市販の中学受験のテキストを買って、子供さんが自主的に勉強していました。
 
わからない問題が出てきた時のアドバイスは「三日間考えてみよう」。
 
大岸さん自身が、高校の先生に言われて三日間考えた経験があり、わからない点をひたすら考え続けて、「なんで」の大切さをわかってもらうためです。
 
大岸さんの子供部屋には学習机がありましたが、子供さんはダイニングテーブルで勉強することが多かったそうです。
 
大岸さん自身がダイニングテーブルでパソコンを使って仕事をするので、三人でスペースを分け合い、「狭い」などブツブツ言いながらやっていました。

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小学校時代に大事な勉強は

大岸さんは、小学校時代には国語力を重視するべきと考えています。
 
これは、故・岡潔数学博士の言葉「知には情を説得する力がない」からの着想で、岡博士は

自分の心が納得したときの証明は正しいけれど、納得しなかった時には必ず間違いが見つかる。
 
だから小さいうちは”情”を磨いてあげることが大切。

としています。
 
大岸さんは、その情を磨けるのは読書と考えており、良い文学作品を読めば、そこに描かれた人たちの心に触れ情が育つと考えています。それが「小学生のうちは国語力が大事」ということになるのです。

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読書しない次男に「読みなさい」と言わず 読み始めたきっかけは?

国語力の大事さを強調している大岸さんですが、実は「次男が小2まで本をまったく読まなくて、悩んだことがあった」そうです。
 
7歳上のお兄ちゃんは小さい頃から読書好きでいろんな本を読んでいたのと対照的に、次男さんは先にゲームを覚えてしまったのです。
 
しかし子供に「○○しなさい」とは言わないのがモットーだったので、「本を読みなさい」は言わず、ひたすら我慢していました。当時の大岸さんの日記を見返すと、葛藤が記録されているそうです。
 

 
次男さんが読書するようになったきっかけは、将棋でした。
 
仲良しのお友達が将棋好きだったため、詰め将棋にハマるようになり、将棋会館にも通うようになりました。
 
会館では将棋の本がたくさん販売されていて、いきおい将棋の本を読むようになったのです。そこから上橋菜穂子さんの本や三国志などを、大岸さんいわく「それまで読まなかった分を取り戻すように」ものすごい勢いで読み始めました。

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テレビゲームのルールは?

「子供がゲームばっかりやって困る」という家庭は多いのではないでしょうか。
 
子供を夢中にさせてしまうゲームに、大岸家はどのようなルールを作ったのでしょうか?
 
意外なことに、大岸家ではゲームがテレビに常につながっている状態なのだそうです。さらに、子供さんが塾の週末テストから帰ってきたら、良恵さんからゲームに誘うこともありました。
 
遊ぶのは「大乱闘スマッシュブラザーズ」「ポケモン」「星のカービィ」「マリオ」など、基本的に任天堂のソフトだけ。血が出るような暴力的なゲームは購入していません。
 

 
常にゲームができる状態でしたが、夜9時には寝るというルールがありました。そのため学校から帰ってきて、やるべきことを済ませていると、ゲームの時間は意外と無かったそうです。
 
「人生ゲーム」「モノポリー」「アバロン」「ブロックス」「リスク」など、アナログなボードゲームも家族で楽しみました。
 
将来必要になりそうなビジネス思考を育てるのにも役立っているようです。

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テレビとのつきあい方は?

大岸家ではNHKのみ。
 
朝と夕方のニュースを見ることが多く、報じられた内容を話題にして家族で話をしました。
 
アメリカ大統領選挙の報道を見ながら、民主党と共和党の違いなどを話すのです。バラエティ番組は見ません。

子供への声かけにおけるルール

子供に「○○しなさい」と言わないようにしていたのは前述のとおりです。
 
その他にも大岸さんは「だから言ったじゃない」「ダメじゃないの」といった否定的な言葉も使いませんでした。
 
こうした言葉は子供を萎縮させてしまいます。親子関係は信頼がベースであり、子供が失敗したときも怒ってはいけません。
 
次男さんが本を読まなかった時期も、このルールは厳守しました。大岸さんは「子育てって忍耐というか、子供との根比べです。自分との約束を破ったら、子供を裏切ることにもなります」と語っています。