「子供はほめて育てる」とは、子育てとは無関係の人でも一度は耳にしているのではないでしょうか。
 
教育方針として一時期はかなり支持されていたようですが、近年は批判的な識者も増えてきたようです。
 
心理学者の榎本博明氏はそのひとりです。

榎本氏は、著書「ほめると子どもはダメになる」の中で「ほめて育てる」ことの弊害を指摘されています。
以下に、同書を著すに至った榎本氏の体験談を紹介します。


かつてはこんな大学生はいなかった―――。
 
教鞭を執って三十三年になるが、驚くほかない言動に遭遇することが増えている。授業中に寝ている学生を起こすと、またすぐに寝る。そこで教壇を降りて注意しに行くと、「僕は夜中じゅうバイトしてて、ほとんど寝てないんです。寝させてください」。寝たいなら教室から出て寝なさいと言うと、「友だちと一緒にいたいんです」。
 
さらには、「授業料を払ってるから、ここにいる権利があります。他の先生は注意なんかしません」と食い下がる。こちらも譲歩するわけにはいかないので、何とか説得して出て行ってもらった。
 
別の日、毎回四十分以上も遅刻する学生に注意すると、「これでも頑張って起きて十時に家を出てきてるんです。家が遠いんです」と悪びれずにアピールする。単位を落とした学生の親がやってきて、「ウチの子は頑張ったって言ってます。それなのになんで落とすんですか」と詰め寄る。
 
こうした異変が起きているのは大学内だけではないようだ。心理学者として企業研修や教育講演に出向くと、講演後には深刻な相談が寄せられる。
 
「病院ではミスが命にかかわります。ミスや間違いは厳しく注意しないといけないんですけど、そうすると若い子ほどすぐ辞めるんです。上からは『ほめて育てるように』と言われますが、それじゃ看護師として一人前にならないし、どうしたらいいんでしょうか」(看護師)
 
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